タチアナ・パーハ & アンドレス・ベエウサエルト(Tatiana Parra & Andres Beeuwsaert / AQUI)

タチアナ・パーハ & アンドレス・ベエウサエルトの「AQUI」。
アンドレス・ベエウサエルトはアナ・セカ・トリオというアルゼンチン・フォルクローレの代名詞的存在のユニットのピアニスト。
タチアナ・パーハはブラジルはサンパウロ出身でアンドレスの前作「DOS RIOS」(これもすごくよかった!)やアカ・セカ・トリオのアルバムなどにも参加している女性ヴォーカリスト。

ここのところ、アルゼンチンのコンテンポラリー・フォルクローレといわれるくくりの音楽(まだよくわかっていなのだが)を聴いている。
先日書いたカルロス・アギーレを聴いて以来このあたりの音楽に共通する独特の浮遊感と和声の心地よさに完全にはまってしまった。
浮遊感といってもミナスの音楽にある浮遊感とはまたちょっと違った空気感。

アルバムはアンドレス・ベエウサエルトのオリジナル曲を中心にカルロス・アギーレの楽曲やエドゥ・ロボの「Corrida de Jangada」(エリス・へジーナ「IN LONDON」の1曲目)そしてチャールズ・チャップリンの「ライムライト」までいろいろ。
だが、どの曲も音と音がぶつかり合ってゆっくりと解け合いながら広がっていくような自然な響きに満ちている。
MPBやボサノヴァなどを聴き慣れた耳にもすんなりと入ってくるとっても心地よい音楽。
アンドレスのピアノと息のぴったりあったタチアナのスキャットが素晴らしい。

BRAZILiAN OCTOPUS

先日書いたアミルトン・ヂ・オランダ & アンドレ・メーマリの「gismonti pascoal」で書いたエルメート・パスコアルの関連作品ということになるが、1970年に発表されたブラジルのインストバンド「ブラジリアン・オクトパス」の唯一のオリジナルアルバム。
カエターノらとトロピカリズモを支えたギタリスト、ラニー・ゴルディンが中心となって結成されたバンドでこの中でエルメート・パスコアルはヴィブラフォンで参加している。

ジャケットからもわかるがピアノ、オルガン、ギター、フルート、サックス、ヴィブラフォン、ベース、ドラムスからなるかなりユニークな8人編成のバンド。
変わっているのは編成だけでなく音楽がとっても面白い。
60年代特有のドラムパターンやオルガンのバッキング、そしてヴィブラフォンのサウンドはまさにモンド系ラウンジミュージックだ。
フルート、サックスや個々の楽器の和音の積み方など緻密に計算されていて素晴らしい。
それなのに曲は決してこむずかしくなく全篇をとおして漂っているほのぼのした雰囲気がなんともいえずいい。
ガブリエル・フォーレ(1845-1924)の「パヴァーヌ」なんかも取り上げているのだが最初聴いた時は他の曲とあまりにもなじんでいて気がつかなかった。(フォーレはいわゆる近代のフランスの作曲家だが和声の点でブラジルの音楽との接点も多いようだ。)
デオダードなんかも同じフランスのラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」を取り上げたりしているしこのあたりの音楽はきっと近いものがあるに違いない。
1曲が2〜3分ぐらいで曲調もバラエティに富んでいてとても楽しいアルバムだ。

ちなみにこのアルバムLP市場でがかなりのお宝盤のようでかなり高額で取引されているらしい。
今こういう時代のなか南米系音楽は特にリイシューが活発に行われていて、こういう貴重な音源を手に出来るのはとても幸せなことだと思う。

カルロス・アギーレ(Carlos Aguirre Grupo)

カルロス・アギーレ。
アルゼンチンのシンガー・ソングライター、ピアニスト、詩人。
昨年10月に初来日したようだ。
写真は「Carlos Aguirre Grupo」2000年作品の国内盤。
ジャケットがとても素敵だ。
クリーム色のクラフト紙の小窓から覗いているイラストは1枚1枚手書きで、国内盤のみならず全て手作りなのだそうだ。

アルゼンチンのフォルクローレ、それからブラジルのミナスのアーティストの影響を受けているという。
おそらくこれがアルゼンチンのフォルクローレからの影響なのだろうと思われる風味のようなものを感じとることができるが、とても洗練された音楽だ。
ブラジルのボサノヴァやMPBなどに聴き慣れた耳にも心地よくすんなりと入ってくる。
スペイン語の響きがまたポルトガル語と違って新鮮に感じる。
ピアノとギターと歌がとてもやさしくライヴはまたとてもいいんだろうなあ。

アミルトン・ヂ・オランダ & アンドレ・メーマリ(gismonti pascoal / Hamilton De Holanda & André Mehmari)

ブラジルのバンドリンの名手アミルトン・ヂ・オランダとピアニスト、アンドレ・メーマリによるブラジルの作曲家エグベルト・ジスモンチとエルメート・パスコアルへのオマージュ、作品集。

バンドリンの音色がすごくいい。
バンドリンの素朴な音色で奏でられる美しいメロディと浮遊感のあるピアノの和音が心地よい。
それから当然なのかもしれないけど曲がまたすごくいい。
コロコロと跳ね回るような超絶的プレイが聴ける曲もいいが、作曲者エグベルト・ジスモンチ自身も参加している「Fala De Paixao」なんか、どこか広い草原のような場所でそよ風に吹かれているようなそんな感じの心地よさ。
ずっと聴き続けていたくて何度も何度もリピートして聴いた。

バンドリンって同じ南米の楽器のカヴァキーニョ(形も音色もかわいらしい)の兄貴分みたいに思っていたが、マンドリンと見た目も奏法もほとんど同じらしい。
ブラジルではショーロなどで使われる楽器だがこのアルバムを聴いてこの楽器にも興味がわいてきた。

エグベルト・ジスモンチもエルメート・パスコアルもほとんど聴く機会がなかったがこのアルバムでこういう形で聴くことができてとてもよかったと思う。

グスタフ・マーラー/交響曲第5番嬰ハ短調第4楽章〜アダージェット(Gustav Mahler/Adagietto)

今年はグスタフ・マーラー(1860-1911)の没後100年ということでCDショップや書籍で特集が組まれていたり、今月から新しい映画の公開もあるらしい。
もう20年以上も前の全集だけどシノーポリ指揮の交響曲全集(12枚組)が3500円ほどで並んでいたので購入、ここ数日ずっと聴いている。
最近円高のせいもあって、CDが安く買えるのはとても嬉しい。

さて、交響曲第5番はマーラーの交響曲の中でも人気の高い曲で、特に第4楽章のアダージェットはハープと弦楽による非常に美しい楽章。
ルキノ・ヴィスコンティの映画「ベニスに死す」で使用され有名である。
ある種病的で妖しげな色気のようなものが漂う。
ハープのアルペジオにのってヴァイオリンがしっとりと歌い始め静かにゆっくり高まっていくのだが、終盤の小休止する部分でヴァイオリンとヴィオラが高音から低音にかけてpppでグリッサンドする箇所があるのだが、初めて聴いた時背筋がゾゾっと、こりゃいわゆる一般的なクラシック音楽と違うなと思った。
というか、ここまで聴き進む前からわかってることではあるが・・。

このアダージェットを聴いているとカエターノ・ヴェローゾのスローな弾き語り(LindezaとかLua Lua Luaとか)とある種の共通した香りのようなものを感じる。
この曲をカエターノがギターを爪弾きながら歌ったとしてもきっと何の違和感もないだろう。
決してただ甘いだけの音楽ではないのだが聴いていると「脳内モルヒネ」がたくさん分泌されるような麻薬的要素があるのかもしれない。

ちなみに、このアダージェットの僕的ベストアルバムは、
ロリン・マゼール指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1982年録音)だ。
こちらもマゼールがかなり根知っこく病的なまでにフレージングやアーティキュレーションを拘り抜いて録音した名盤だ。
僕はこれが頭に摺り込まれているせいか、他の演奏がどうもあっさりして聴こえる。。
近々廉価版で国内盤がリイシューされるらしい。リマスタリングされていると嬉しいのだがどうかな。